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cubegirl*+α

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夏の陽射しが雨上がりのアスファルトをジリジリと照りつけ、空気は熱と湿り気を帯びていた。

大通りから少し外れた所にある、コンクリート塀に挟まれた細い路地をまっすぐ進むと、老朽化した第二校舎がある。

夏が始まりたての頃、私はいつもそこを一人で歩いていた。





中学三年生、私は自宅から電車で一時間近く離れた街にある進学塾に通うため、父方の叔母の家にひと月ばかり下宿していた。

極度の勉強嫌いだった私は、中学三年生までbe動詞が分らないほどだった。

その癖、親戚一同進学校以外への進学は異端であるとされるほど厳しい家系に生まれ育っていた。

このころから父との関係も悪化し、私が進学校へ行かないならば縁を切るとさえ言われていたのだ。

そこでせめて夏の間だけでもと、親戚のうちで隔離し、夏期講習に通わせるという親の目論見で、私はそこに身を置くことになったのだ。


夏期講習は午前9時から始まり、数学、社会、国語と3コマ終え昼休みが入る。

午後からは第二校舎へ移り理科、英語、と続いた。


夏期講習が始まり、当然の如く私に友達は居なかった。

耳にする中学校の名は一つも知らず、仲良さそうに話をするほかの生徒たちが羨ましかった。

人見知りの激しい私は自分から誰か他の人に話しかけることもできず、淡々と日々過ぎてゆき、勉強もさっぱりで孤独の中泣き出したいほどだった。



そんな中、楽しみな授業が一つだけあった。国語の授業だった。

浜という若い男の先生は、私によく話題を振った。

私は国語が得意だった。本文を朗読しろという指示をクラスで一番上手にこなすのは私だった。

「おまえは国語がよくできるな。得意だろ?」

ほかの授業でボロボロなだけに、国語の授業で浜先生にほめてもらえることだけが私の喜びだった。



相変わらず友達はできなかったが、少しずつ環境にも慣れて徐々に余裕が出てきた。

といっても授業内で笑ったり、隣の席の生徒に挨拶をする程度だったが…。



その頃からだったか、いつも私の斜め前に座る男の子に目が行くようになっていた。

背が高くて、黒く焼けた肌に、髪が少し伸びたような坊主頭の男の子だった。

理由もなく、斜め後ろから見えるその横顔が気になっていた。

好きだとか、かっこいいとかそんな憧れは感じていないのに、なぜか気持が引き寄せられてしまい、「私、この人と付き合うんだ」と思った。思ったというより、無意識にそう感じた。


私はそれまで男の子と付き合ったことがないわけでは無かった。

付き合うと言っても、学校から一緒に帰ったり、電話したり、部屋で二人で勉強したり音楽を聴いたり。そんな程度だったが。

要するに、お互いの体に触れたりするような関係は一切なかった。



続く…  





(↓に追加されるように更新していきます)







 

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国語の授業で一緒になる男の子と、時々目が合うようになった。

目が合うようになったというより、向こうがこちらに何度も目をやってるのに気づくようになったといったほうが正確だろうか。

しかし私は、目があっても決して表情一つ変えず目をそらしたり、テキストに目を落とすようにしてそちらを見ないようにした。

私は自分に自信がなかったので、物珍しげに見られてると卑屈になっていた。

それでもやっぱり、どしてもその男の子が気になって仕方なかった。



名前も知らない、どこの中学かもしらない。

何の部活をしてるの?彼女はいるの?

やっぱり頭いいのかな?

どんな友達がいるんだろう?



遠く離れた街での夏期講習という環境で偶然居合わせただけの男の子に異常なほどの興味を持ち始めていた。

何も知らない人間に、ましてやひとめぼれするほど美男子でもない彼に、何を理由にひきつけられるのだろう?と。





私は午前の授業が終わると一度親戚の家に帰り昼食を取り、午後の授業に合わせ家を出た。

私はいつも水色のリュックサックを背負っていた。

制服の白いブラウスに紺のスカート。そして水色のリュックサック。

ベリーショートだった私は一見男の子のように見えたかもしれない。

女の子として見られようが見られまいが、気にならなかった。

恋愛など、どうでもよかった。

これから自分が生まれて初めて心がちぎれてしまいそうな程誰かを想うことになるなんて、

少しも予想していなかった。





第二校舎に向かってコンクリート塀に囲まれた細い路地を一人で進んだ。

夏の暑さと同時にセミの鳴き声も記憶している。


一刻も早く冷房の利いた教室にたどり着きたくて、「眩しいなぁ…」とか「セミ、元気だなぁ」とか、私はすっかり夏の煩わしさに思考回路を占領されていた。

しかし教室に着くと同時に夏の煩わしさからは解放され、そうすると今度はその隙間のできた思考回路に孤独感が流れ込んでくる。

勉強しに来たんだから、友達なんていなくて当然。

そう思うも、やはり楽しそうな周りの子たちの中で私は完全に浮いており、授業の合間の休憩時間など最も孤独を感じさせられた。

午後1番最後の授業は英語だった。これは少し発展形の内容を含んだ授業であり、先も述べたようにやっとbe動詞を覚えたばかりの私には、理解するにはもちろん、発言を強いられることは非常に苦痛だった。

しかし、この授業では席の左前から順を追って答えの発表を求められた。

あと何人で自分の番が来るのか、自分のが答えなければいけないのはどの問題なのか、

そんなことを考えるのに必死だった。

できるだけ小さな声で答えを言ったり、隣の人の答えを見て準備したりした。

誰も自分を知らない中で、間違いを発言する恐怖は計り知れなかった。


ある日、本当に心が折れそうで、泣き出しそうな日だった。

コンクリート塀に挟まれた細い路地を、うなだれて一人で帰っていた。

勉強は少しずつ理解が進むにしろ、やはり孤独だった。


私を追い越していく生徒たち。目を合わせないように下を向いて歩いていた。



「一人?」


うつむいていた私の横に一台の青い自転車が止まった。顔を上げると、例の国語の男の子だった。


「急に話しかけてごめんだけど、もしよかったら一緒にかえらん?」


「あ、はい」と、私は言ったものの、何が何だかわからなかった。

なんであの男の子が?

やっと誰か話しかけてくれた!って思ったら、あの子!?本当に…?






続く… 






(↓に続き出るよう更新します)




彼は俊輔という名前だった。その日から彼を俊くんと呼ぶようになった。
私が遠い中学から来ていることを話したり、彼が野球部だという話を聞いた。



「国語の授業で一緒だろ?国語、よくできるよな。俺全然できんからすごいなぁと思うわ」

「国語は好きなの。でも数学とか英語が全然ダメ。本当に全くできないの。俊くんは何が得意?」

「俺数学得意だで、教えてやろうか?」

「本当?じゃあ、今度教えて。数学の先生怖いし全然ついていけない…」

「新庄先生は怖いからなぁ」



新しい環境で初めて友達ができたうれしさと、ずっと気にしていた男の子と急接近したうれしさで、私の顔はほころびっぱなしだった。

自転車の後ろに乗ってもいいと言われたけど、あまりにも恥ずかしかったのでそれは断った。



その日の日記に「あの男の子、俊輔って名前らしい。話しかけてきてくれてすごくうれしかった」と書いた。




次の日から、塾生活は一気に楽しくなった。


地元の中学校の名前や、方言も教えてもらった。

塾の先生たちのウワサ話なんかもなんだか楽しかった。

俊くんは私のことを「ちぃちゃん」と呼ぶようになった。




午後の授業の休憩時間、俊くんに友達を紹介された。

「ちぃちゃん、こいつ俺の友達、ヤスタカってゆうんだけん。仲よくしてやって。」

俊くんに紹介された男の子は、俊くんとは対照的に華奢で、髪が少し茶色くて、目がクリっとして鼻筋の通った大人しい男の子だった。彼は誰が見ても美男子だった。

彼のことは「やっちゃん」と呼ぶようになった。

やっちゃんは数学の授業で一緒だった。頭がよくて、難しい問題も軽々解いていたので、先生からもよく指されていた。

彼の苗字は珍しいものだったが聞きなれたものだった。

私の同じ中学にも同じ名字の男の子が居たのだ。

その事を話すと、なんと彼の母の実家がうちのすぐ近くだったのだ。そうして話が盛り上がって、やっちゃんとも、どんどん仲良くなった。

やっちゃんは本当に美男子だったので、話をしているだけで妙な満足感を覚えた。

男だって、きれいな女と親しげに話す自分を嫌いな人はいないだろう。それと同じだ。


だけどその日の日記には、

「今日、俊くんに友達を紹介してもらった。やっちゃんってゆう男の子。本当にかっこいい。でも、私は俊くんの方が好きかなー」

そう書いていた。



3人はどんどん仲良くなった。休憩時間はいつも一緒にいた。そして毎日一緒に帰った。

あれほど早く終わってほしいとさえ思った休憩時間が、今では ああ、もうあと何分しかない… などと思うようになった。

私があれほど憧れていた楽しそうに話す生徒たちに、わたしはいつの間にか馴染んでいた。


楽しい時間は瞬く間に過ぎるのだ。







続く…


(↓に追加されるよう更新します)





ある日曜日、叔母が青ざめた顔で私のところへやってきた。

話によると、つい今しがたインターホンが鳴り、出てみると男の子二人が私を訪ねてきているようだとのこと。名前を聞くと俊くんとやっちゃんだった。


叔母の家は塾のすぐ裏で、彼らに家の前まで送ってもらうのが常だったので、この家のインターホンを押せば私に会えると二人は知っていた。


叔母にどんな関係なのだと問われ、塾の友達だと答え、要件を聞いてくるといい外へ出た。

二人は笑いながら、自転車で40分もかかる中私に会いに来たのだと言った。もう来週で夏期講習も終わりだから、何か思い出を作りたいと言った。

日陰になったコンクリートの上にしゃがみ込む俊くんと、自転車にまたがったままこちらを向いているやっちゃん。二人の顔を交互に見ても、考えるのは俊くんのことばかりだった。筋肉質な四肢や焼けた肌など肉体的な部分にただひかれていたのかもしれないし、小ぶりの目の中の大きな黒い眼に滲む優しさにひかれていたのかもしれない。私の口元は無意識のうちにほころんでいたに違いない。


叔母の目もあるので、この日は誘いを断った。
二人とわかれるとすぐ家に戻ったのだが、叔母は顔を引きつらせ「長い間何をしていたの?」言った。

瞼はピクピクと震え口角は片方下がったままなのに笑顔のつもりだったのだろうか。
叔母のその表情に対して私はどう反応していいかわからなかったが、もしかすると私もつられて同じような顔で返事を返していたかもしれない。

叔母には、塾で仲よくしてもらっている友達で、夏期講習の最後になる前に食事に行こうと言われたのだとそのままを伝えたのだが、その夜、実家の父から電話があった。

叔母に心配をかけさせるなということだけ言われた。
叔母も、人の娘を預かっている間に何かあったらということで私が大そう気がかりなのだそうだ。

そのことについてはきちんと承知していたし、だからあの日、二人の誘いを断ったのだ。勉強するためにここへ来たという意識は忘れてはいなかった。

実際に英語も随分身とにつき、数学も大分一人でこなせるようになった。恋は勉強のおまけにあること、というよりは、その時俊くんに対して抱いていた感情が恋心だと気づいていなかったので、わたしには幾分余裕があった。

余裕の無い恋心がどういうものか知らなかったので、どんどん人を好きになっていく感覚に対して何も抵抗が無かった。

恋に落ちる瞬間、待ったとブレーキをかけてみたり、何度も思い直したり、理想に叶うかとか、勝手な目線で見た妙な条件に叶うかどうかなど、考えることは一切無かった。、気がづいたらいつも想うようになっていた。



夏期講習が終わり、私は実家へ帰った。

その後成績も上がり、勉強を怠るようなことも無かった。だけどこの頃、自分の中で俊くんに対して特別な気持があるということをはっきりと自覚しはじめた。





私が実家に帰ってすぐ、俊くんに好きだと言われた。




私たちは毎日電話するようになっていた。
夏期講習が終わり最後に会った時、俊くんは私にピッチの番号を教えてくれたのだ。

俊くんとやっちゃん、二人の住所を教えてもらったので、二人に交互に出紙を書いた。二人の住所を覚えるほど何度も書いた。手紙の返事はなく私からの一方的なものだったが、俊くんは電話でその返事をくれた。

「手紙読んだよ。ヤスタカも手紙が届いたとよろこんでいたよ。」


私は俊くんとの電話を楽しみにしていた。毎日、1時間、2時間と、話した。
「昨日はちーちゃんからだったから、今日は俺からね。」
そうしてお互いが交互に電話をかけた。

中学生だった私たちは電話が長くなるほど1分1分電話料金を気にしながら「そろそろ切らないとダメかな?でもまだ切りたくないなぁ」なんて話していた。

「そろそろ切らなきゃ」ただそれだけで何十分も話を続けた。

そしてそんな話の中で俊くんが「俺、ちーちゃんのこと好きだけん」と私に告げたのだった。

それは私も同じだったが、ここへきて、なぜか好きだと気持ちを伝えることが怖かった。
毎日の電話が楽しすぎて、私も好きだと伝えたとたん、二人の関係に何らかの変化があるとしたらと考えた。余りに好きな人と恋人同士になるということを生まれて初めて真剣に考えたのだ。


「私は俊くんもやっちゃんも同じくらい好きだよ。仲よくしてくれて本当にありがとうね」

そうごまかして伝えることで精いっぱいだった。


「なんだそれ。そうゆう好きじゃなくて、俺はちーちゃんが好きなの。」

俊くんは恋愛に慣れているのかえらく大胆だった。私よりもずいぶん余裕があった。

それでも電話で話すときは、「会いたい」と、私からも言った。

いつの間にか「顔が見たい」とか「もう少し近くに住んでいたら」とか、そんなことも言っていたかもしれない。


どんどん好きになった。
受話器から続くらせん状電話のコードの中にいつの間にか入り込んで、電話線を通って向こうに行けたらどんなに幸せかなんて思ったりしながら俊くんの顔を思い出していた。


俊くんから毎日好きだと言われた。

「ちーちゃんはどうせヤスタカの方が好きなんだろ?」とか、

「俺とヤスタカに結婚しよって言われたらどっちとする?」とか、

片思いの多かった私は、好きな人にしつこく好きだと言われ、正直に嫉妬されることは初めてでたまらなくうれしかった。


相変わらずはぐらかしたような返事をしていたけれど、私も好きだと言いたいと思うようになっていった。
好きだと言えたらと、考えることが楽しみだった。


「ちーちゃん、今度あったらキスしよー!」

何を言ってるんだコイツは、と思いながら、

「いやだー、付き合ってない人とキスとかしたくないもん」

と言いながら、私はその日の日記に



俊くんにキスしよって言われた。でも私はまだキスとかしたことないもん。どうせ俊くんはそうゆうの慣れてるんだろうな。でも、俊くんとならキスしてもいいかも―


と書いたのを覚えている。











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