彼は俊輔という名前だった。その日から彼を俊くんと呼ぶようになった。
私が遠い中学から来ていることを話したり、彼が野球部だという話を聞いた。
「国語の授業で一緒だろ?国語、よくできるよな。俺全然できんからすごいなぁと思うわ」
「国語は好きなの。でも数学とか英語が全然ダメ。本当に全くできないの。俊くんは何が得意?」
「俺数学得意だで、教えてやろうか?」
「本当?じゃあ、今度教えて。数学の先生怖いし全然ついていけない…」
「新庄先生は怖いからなぁ」
新しい環境で初めて友達ができたうれしさと、ずっと気にしていた男の子と急接近したうれしさで、私の顔はほころびっぱなしだった。
自転車の後ろに乗ってもいいと言われたけど、あまりにも恥ずかしかったのでそれは断った。
その日の日記に「あの男の子、俊輔って名前らしい。話しかけてきてくれてすごくうれしかった」と書いた。
次の日から、塾生活は一気に楽しくなった。
地元の中学校の名前や、方言も教えてもらった。
塾の先生たちのウワサ話なんかもなんだか楽しかった。
俊くんは私のことを「ちぃちゃん」と呼ぶようになった。
午後の授業の休憩時間、俊くんに友達を紹介された。
「ちぃちゃん、こいつ俺の友達、ヤスタカってゆうんだけん。仲よくしてやって。」
俊くんに紹介された男の子は、俊くんとは対照的に華奢で、髪が少し茶色くて、目がクリっとして鼻筋の通った大人しい男の子だった。彼は誰が見ても美男子だった。
彼のことは「やっちゃん」と呼ぶようになった。
やっちゃんは数学の授業で一緒だった。頭がよくて、難しい問題も軽々解いていたので、先生からもよく指されていた。
彼の苗字は珍しいものだったが聞きなれたものだった。
私の同じ中学にも同じ名字の男の子が居たのだ。
その事を話すと、なんと彼の母の実家がうちのすぐ近くだったのだ。そうして話が盛り上がって、やっちゃんとも、どんどん仲良くなった。
やっちゃんは本当に美男子だったので、話をしているだけで妙な満足感を覚えた。
男だって、きれいな女と親しげに話す自分を嫌いな人はいないだろう。それと同じだ。
だけどその日の日記には、
「今日、俊くんに友達を紹介してもらった。やっちゃんってゆう男の子。本当にかっこいい。でも、私は俊くんの方が好きかなー」
そう書いていた。
3人はどんどん仲良くなった。休憩時間はいつも一緒にいた。そして毎日一緒に帰った。
あれほど早く終わってほしいとさえ思った休憩時間が、今では ああ、もうあと何分しかない… などと思うようになった。
私があれほど憧れていた楽しそうに話す生徒たちに、わたしはいつの間にか馴染んでいた。
楽しい時間は瞬く間に過ぎるのだ。
続く…
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