国語の授業で一緒になる男の子と、時々目が合うようになった。
目が合うようになったというより、向こうがこちらに何度も目をやってるのに気づくようになったといったほうが正確だろうか。
しかし私は、目があっても決して表情一つ変えず目をそらしたり、テキストに目を落とすようにしてそちらを見ないようにした。
私は自分に自信がなかったので、物珍しげに見られてると卑屈になっていた。
それでもやっぱり、どしてもその男の子が気になって仕方なかった。
名前も知らない、どこの中学かもしらない。
何の部活をしてるの?彼女はいるの?
やっぱり頭いいのかな?
どんな友達がいるんだろう?
遠く離れた街での夏期講習という環境で偶然居合わせただけの男の子に異常なほどの興味を持ち始めていた。
何も知らない人間に、ましてやひとめぼれするほど美男子でもない彼に、何を理由にひきつけられるのだろう?と。
私は午前の授業が終わると一度親戚の家に帰り昼食を取り、午後の授業に合わせ家を出た。
私はいつも水色のリュックサックを背負っていた。
制服の白いブラウスに紺のスカート。そして水色のリュックサック。
ベリーショートだった私は一見男の子のように見えたかもしれない。
女の子として見られようが見られまいが、気にならなかった。
恋愛など、どうでもよかった。
これから自分が生まれて初めて心がちぎれてしまいそうな程誰かを想うことになるなんて、
少しも予想していなかった。
第二校舎に向かってコンクリート塀に囲まれた細い路地を一人で進んだ。
夏の暑さと同時にセミの鳴き声も記憶している。
一刻も早く冷房の利いた教室にたどり着きたくて、「眩しいなぁ…」とか「セミ、元気だなぁ」とか、私はすっかり夏の煩わしさに思考回路を占領されていた。
しかし教室に着くと同時に夏の煩わしさからは解放され、そうすると今度はその隙間のできた思考回路に孤独感が流れ込んでくる。
勉強しに来たんだから、友達なんていなくて当然。
そう思うも、やはり楽しそうな周りの子たちの中で私は完全に浮いており、授業の合間の休憩時間など最も孤独を感じさせられた。
午後1番最後の授業は英語だった。これは少し発展形の内容を含んだ授業であり、先も述べたようにやっとbe動詞を覚えたばかりの私には、理解するにはもちろん、発言を強いられることは非常に苦痛だった。
しかし、この授業では席の左前から順を追って答えの発表を求められた。
あと何人で自分の番が来るのか、自分のが答えなければいけないのはどの問題なのか、
そんなことを考えるのに必死だった。
できるだけ小さな声で答えを言ったり、隣の人の答えを見て準備したりした。
誰も自分を知らない中で、間違いを発言する恐怖は計り知れなかった。
ある日、本当に心が折れそうで、泣き出しそうな日だった。
コンクリート塀に挟まれた細い路地を、うなだれて一人で帰っていた。
勉強は少しずつ理解が進むにしろ、やはり孤独だった。
私を追い越していく生徒たち。目を合わせないように下を向いて歩いていた。
「一人?」
うつむいていた私の横に一台の青い自転車が止まった。顔を上げると、例の国語の男の子だった。
「急に話しかけてごめんだけど、もしよかったら一緒にかえらん?」
「あ、はい」と、私は言ったものの、何が何だかわからなかった。
なんであの男の子が?
やっと誰か話しかけてくれた!って思ったら、あの子!?本当に…?
続く…
(↓に続き出るよう更新します)
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