私が実家に帰ってすぐ、俊くんに好きだと言われた。
私たちは毎日電話するようになっていた。
夏期講習が終わり最後に会った時、俊くんは私にピッチの番号を教えてくれたのだ。
俊くんとやっちゃん、二人の住所を教えてもらったので、二人に交互に出紙を書いた。二人の住所を覚えるほど何度も書いた。手紙の返事はなく私からの一方的なものだったが、俊くんは電話でその返事をくれた。
「手紙読んだよ。ヤスタカも手紙が届いたとよろこんでいたよ。」
私は俊くんとの電話を楽しみにしていた。毎日、1時間、2時間と、話した。
「昨日はちーちゃんからだったから、今日は俺からね。」
そうしてお互いが交互に電話をかけた。
中学生だった私たちは電話が長くなるほど1分1分電話料金を気にしながら「そろそろ切らないとダメかな?でもまだ切りたくないなぁ」なんて話していた。
「そろそろ切らなきゃ」ただそれだけで何十分も話を続けた。
そしてそんな話の中で俊くんが「俺、ちーちゃんのこと好きだけん」と私に告げたのだった。
それは私も同じだったが、ここへきて、なぜか好きだと気持ちを伝えることが怖かった。
毎日の電話が楽しすぎて、私も好きだと伝えたとたん、二人の関係に何らかの変化があるとしたらと考えた。余りに好きな人と恋人同士になるということを生まれて初めて真剣に考えたのだ。
「私は俊くんもやっちゃんも同じくらい好きだよ。仲よくしてくれて本当にありがとうね」
そうごまかして伝えることで精いっぱいだった。
「なんだそれ。そうゆう好きじゃなくて、俺はちーちゃんが好きなの。」
俊くんは恋愛に慣れているのかえらく大胆だった。私よりもずいぶん余裕があった。
それでも電話で話すときは、「会いたい」と、私からも言った。
いつの間にか「顔が見たい」とか「もう少し近くに住んでいたら」とか、そんなことも言っていたかもしれない。
どんどん好きになった。
受話器から続くらせん状電話のコードの中にいつの間にか入り込んで、電話線を通って向こうに行けたらどんなに幸せかなんて思ったりしながら俊くんの顔を思い出していた。
俊くんから毎日好きだと言われた。
「ちーちゃんはどうせヤスタカの方が好きなんだろ?」とか、
「俺とヤスタカに結婚しよって言われたらどっちとする?」とか、
片思いの多かった私は、好きな人にしつこく好きだと言われ、正直に嫉妬されることは初めてでたまらなくうれしかった。
相変わらずはぐらかしたような返事をしていたけれど、私も好きだと言いたいと思うようになっていった。
好きだと言えたらと、考えることが楽しみだった。
「ちーちゃん、今度あったらキスしよー!」
何を言ってるんだコイツは、と思いながら、
「いやだー、付き合ってない人とキスとかしたくないもん」
と言いながら、私はその日の日記に
俊くんにキスしよって言われた。でも私はまだキスとかしたことないもん。どうせ俊くんはそうゆうの慣れてるんだろうな。でも、俊くんとならキスしてもいいかも―
と書いたのを覚えている。
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