ある日曜日、叔母が青ざめた顔で私のところへやってきた。
話によると、つい今しがたインターホンが鳴り、出てみると男の子二人が私を訪ねてきているようだとのこと。名前を聞くと俊くんとやっちゃんだった。
叔母の家は塾のすぐ裏で、彼らに家の前まで送ってもらうのが常だったので、この家のインターホンを押せば私に会えると二人は知っていた。
叔母にどんな関係なのだと問われ、塾の友達だと答え、要件を聞いてくるといい外へ出た。
二人は笑いながら、自転車で40分もかかる中私に会いに来たのだと言った。もう来週で夏期講習も終わりだから、何か思い出を作りたいと言った。
日陰になったコンクリートの上にしゃがみ込む俊くんと、自転車にまたがったままこちらを向いているやっちゃん。二人の顔を交互に見ても、考えるのは俊くんのことばかりだった。筋肉質な四肢や焼けた肌など肉体的な部分にただひかれていたのかもしれないし、小ぶりの目の中の大きな黒い眼に滲む優しさにひかれていたのかもしれない。私の口元は無意識のうちにほころんでいたに違いない。
叔母の目もあるので、この日は誘いを断った。
二人とわかれるとすぐ家に戻ったのだが、叔母は顔を引きつらせ「長い間何をしていたの?」言った。
瞼はピクピクと震え口角は片方下がったままなのに笑顔のつもりだったのだろうか。
叔母のその表情に対して私はどう反応していいかわからなかったが、もしかすると私もつられて同じような顔で返事を返していたかもしれない。
叔母には、塾で仲よくしてもらっている友達で、夏期講習の最後になる前に食事に行こうと言われたのだとそのままを伝えたのだが、その夜、実家の父から電話があった。
叔母に心配をかけさせるなということだけ言われた。
叔母も、人の娘を預かっている間に何かあったらということで私が大そう気がかりなのだそうだ。
そのことについてはきちんと承知していたし、だからあの日、二人の誘いを断ったのだ。勉強するためにここへ来たという意識は忘れてはいなかった。
実際に英語も随分身とにつき、数学も大分一人でこなせるようになった。恋は勉強のおまけにあること、というよりは、その時俊くんに対して抱いていた感情が恋心だと気づいていなかったので、わたしには幾分余裕があった。
余裕の無い恋心がどういうものか知らなかったので、どんどん人を好きになっていく感覚に対して何も抵抗が無かった。
恋に落ちる瞬間、待ったとブレーキをかけてみたり、何度も思い直したり、理想に叶うかとか、勝手な目線で見た妙な条件に叶うかどうかなど、考えることは一切無かった。、気がづいたらいつも想うようになっていた。
夏期講習が終わり、私は実家へ帰った。
その後成績も上がり、勉強を怠るようなことも無かった。だけどこの頃、自分の中で俊くんに対して特別な気持があるということをはっきりと自覚しはじめた。
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